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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1290号 判決 1961年10月18日

控訴人 褒徳信用組合

被控訴人 島田喜一郎

主文

控訴人の請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が別紙目録記載の建物につき滅失を原因とする抹消登記申請をなすにつきこれが同意をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、および証拠の関係は、

控訴代理人において「原判決事実摘示中原告の主張のような事実関係であつたところ、原判決別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は本訴提起後である昭和三四年二月一〇日神戸市復興土地区画整理事業の施行に伴う除却命令により取毀され滅失するに至つたので控訴人は訴を変更して被控訴人に対し本件建物の滅失登記申請につき不動産登記法第一四六条第一項の同意を求めるものである。」と述べ、立証として甲第五号証の一、二を提出し、証人横山司、同大浦努、同岩井初栄の各証言を援用し、

被控訴代理人において、「本件建物が、控訴人主張のとおり滅失したことは争わない。しかし、建物滅失登記申請にあたり、利害関係人のなす同意は、利害関係人に同意義務の存する場合であり、本件において、被控訴人はその義務を負担しないから、控訴人の請求は失当である。」と述べ、立証として、証人岩井初栄の証言を援用し、「甲第五号証の一、二の成立はいずれも不知。」と述べたほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴人は本件建物の所有者として、その滅失を原因とする建物滅失登記申請をなすにつき登記簿上の抵当権者たる被控訴人の同意を訴求しているのである。(請求の趣旨には、建物滅失を原因とする抹消登記申請につき同意をせよと表示されているが、右は不動産登記法第九三条の六の建物滅失登記申請に対する同意を求める趣旨であると解すべきである。)

不動産登記法第九三条の六によれば建物の滅失があつたときは「表題部ニ記載シタル所有者又ハ所有権ノ登記名義人ハ一ケ月内ニ建物ノ滅失ノ登記ヲ申請スルコトヲ要ス」るのであるが、その登記申請については、現行不動産登記法上、登記簿上の所有権以外の権利者の承諾書等を必要とすべき規定もなく、かかる権利者において右登記申請に同意すべき義務はないと解すべきである。(もつとも、昭和二六年法律第一五〇号による同法改正前は同法第九三条第八一条によりその建物の登記用紙に「所有権以外ノ権利ニ関スル登記アルトキハ申請書ニ其登記名義人ノ承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルコトヲ要ス」ることとなつていたが、右改正により右各法条は削除された。)

また、控訴人が挙示する同法第一四六条は、登記簿中事項欄の登記抹消につき「登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」の承諾等を要するとしたもので、表示欄の抹消については、かかる第三者の承諾等は要しないものと解すべきである。したがつて、本件のごとき、登記簿事項欄の抹消と登記用紙の閉鎖を招来する建物滅失登記申請については、右法条を適用すべきものではない。

そうすると、本件登記簿に表示された被控訴人名義の抵当権等が実体上有効に設定されたか否かにかかわらず、控訴人の本件請求は主張自体理出ないことは明かである。

控訴人は当審において訴を交換的に変更したものであるから、新訴については第一審として判決すべく、控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 沢栄三 斎藤平伍 石川義夫)

目録

神戸市東灘区魚崎町魚崎字東下三反田百六十六番の五地上

家屋番号百六十七番

一、木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 二十三坪五合

二階坪 十四坪五合

付属建物

木造亜鉛鋼板葺平家建事務所

建坪 二坪六合

家屋番号百六十九番

一、木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 十六坪一合

二階坪 五坪二合

付属建物

木造瓦葺平家建便所

建坪 五合

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